親権を取りたい
離婚する場合の親権者指定について、ご説明します。
目次
1親権者指定しなければならない。
未成年者の子がいる夫婦が離婚をするときは、必ず子の親権者を決める必要があります。親権者を決めなければ、離婚をすることは出来ません。
親権者を決めるにあたっては、夫婦間の感情的なわだかまりは少し横において、子どもの利益を最優先に考えましょう。
2親権者を指定する方法
協議離婚の場合は、離婚届用紙の親権者欄に夫婦(父母)のどちらが親権者になるか父母で協議し、合意して、それを記載して、離婚届を届ければ、親権者が指定されます。
親権者指定について、夫婦間の協議で合意に至らない場合は、離婚届を提出することは出来きません。離婚調停を申し立てて、裁判所での話し合いで決めることになります。
離婚調停で夫婦が合意に到達すれば、親権者が指定されます。
親権者について、調停でも合意に至らない場合は、離婚自体が調停不成立になり、今度は、離婚訴訟を提起して、裁判所が親権者指定を含め、離婚について判断することになります。
3親権者を指定する基準
(1)裁判所が親権者を決めるときは、以下の事情が考慮されます。
子どもの事情
年齢、性別、発育状況、従前の生活環境、現在の生活環境、監護環境の継続性、子どもの意向、心情、子と父母との関係性、情緒的結びつき、兄弟姉妹関係など
父母の事情
監護能力、監護意欲、子への愛情、監護実績、監護の継続性、監護態勢、出生以降の主たる監護者、経済状況、心身の健康、生活態度、虐待の有無、居住環境、教育環境、監護補助者の有無とその内容、監護開始の違法性、面会交流に協力的か否かなど
(2)裁判所が重視する事情
親権者指定に際して、最近裁判所が重視する点は、出生以降の主たる監護者(主に子のの世話をしてきた人)が誰かという点です。これは主たる監護者が母親か父親かは関係ありません。もっとも、父母双方が協力しあって育児をしていたとしても、完全に同等に育児しているケースは稀で、父も積極的に関与はしているが、母の方が関与している割合が多いのが実情です。そのために、母が主たる監護者として、母が親権者と指定されることが多いです。
監護開始態様が違法性を帯びているか否かも裁判所は重視します。例えば、同居中主たる監護者は妻だったのに、夫が妻を騙すような方法で子を連れて別居を開始し、夫による子の監護が継続しているというような事案では、夫による現在の子の監護がある程度継続しても、同居中の妻による主たる監護を重視して、妻を親権者と指定する可能性がかなりの割合であります。
子の年齢が高い場合は、子の意向も考慮されています。15歳以上の子については、裁判所は、子の意向を必ず聞く必要があります。
もっとも、子の意向だけで親権者を決めることはありません。父母と子の関係性やそれまでの生活状況など、子がそのような意向を持つに至った経緯も含めて総合的に判断されます。
(3)面会交流と親権
裁判所は親権者指定の判断材料として、同居親が面会交流に協力的か否かは考慮材料の1つとします。しかし、親権者指定の決定打にはしていません。あくまで、出生から現在までの監護状況を中心として考えているようです。
この点、6年近くも母親が問題なく監護をしていたにも関わらず、面会交流に積極的な条件を示した父親を親権者と指定した判例(千葉家庭裁判所松戸支部平成28年3月29日判決)もありますが、この判例も東京高等裁判所で取り消され、面会交流の協力姿勢は、親権者指定のあくまで1考慮材料に過ぎないことが示され、さらに、最高裁判所でそれが確認されました(最高裁判所平成29年7月12日決定)
(4)家庭裁判所調査官の調査
調停又は訴訟で、親権者の指定に争いがある場合は、裁判官の指示で、家庭裁判所の調査官が、裁判官が判断するための材料となる事情、つまり、子の監護状況について調査することが通常です。
調査の内容は、基本的には、当事者(父親、母親)への事情聴取、子が在籍する保育園や学校の先生への事情聴取、家庭訪問、子への聴き取りなどです。
子への聴き取りは、比較的年齢が高い場合は、子と同居している親に子を裁判所に連れてきてもらって、裁判所で実施します。子の年齢が低い場合は、家庭訪問のときに、実施することが多いです。
調査官が親権者を父母のどちらにするか決定するわけではありませんが、裁判官は、調査報告の調査官の意見を非常に重要視し、裁判官が調査官に意見と異なる判断をすることは稀です。実質的には、家庭裁判所調査官が親権者について決定しているといっても過言ではありません。
調査官の報告書は調査官から裁判官に提出されたのち、当事者も謄写閲覧が出来ます。調査報告書の調査官の意見が結論を左右することが殆どなため、調査官の報告書が出たあと、合意に向けての話し合いが進むこともあります。
4親権者と監護者の分離できるか。
例えば、妻が1日も早く離婚をしたいための妥協策として、子の監護権者は妻とするが、子の親権者は夫とするというように、親権と監護権を分離させて解決しようとする場合があります。
この場合、妻としては、子と同居できて子の監護が出来るので、妻に親権がなくても日常的に支障はないのではないかと考えて、親権と監護権の分離に同意し、そのような決め方も可能ではあります。
しかしながら、離婚後の紛争防止、子の福祉に反する状況を回避するためにも、原則、親権者と監護権者の分離はするべきではありません。
監護権者は、子の日常生活に関することは(身上監護に関すること)は出来ますが、子の財産の管理、子を法的に代理する行為、身分行為について代理することが出来ません。
具体的には、子が転校するときの手続は親権者がする必要がありますし、離婚後子の氏を母の氏に変更する手続きも親権者でないと出来ません。
また、子が病気やケガで手術が必要な場合に監護権者の同意だけではできず、親権者の同意が必要とされることもあります。
さらに、母が再婚して、再婚相手が15歳未満の子を養子縁組しようとしても親権者が承諾してくれなければ、養子縁組出来ません。
このような親権者の法的な権限に関することだけ関与してくるとは限りません。場合によっては、自分は親権者だからと、日々の監護に過度に介入しようとして、子を巡る紛争が継続してしまう危険もあります。子の安定した生活のためには、このような状態は避けなければなりません。
ですので、もともと対立が激しい夫婦ではなおさら、当然ですが、離婚時は円満であっても、親権者と監護権者を分離すること避けるべきだと思います。
5親権者の変更できるか。
夫婦だけの協議離婚のときに時々見られるのですが、例えば、妻が1日も早く離婚したいために、あとで親権者変更すればいいやと考えて、夫が親権者になることに同意して、離婚を成立させることがあります。
しかし、一度決めた親権者指定は、後で親権者が親権者変更に同意するのでなければ、事情の変更、子の生活等に大きく支障をきたすような事情が生じた、親権者を変更しなければ子の福祉に著しく反する事情が生じたという例外的な場合でないと、変更することが出来ません。
ですので、離婚時の親権者を決めるときは、よほどのことがなければ後で親権者変更は認められないと留意した上で、慎重に決める必要があります。