熟年離婚

婚姻後20年以上経ってからの離婚のことを「熟年離婚」と一般的に言われています。
熟年離婚を考える上で注意しなければいけないこと、よく問題となる点をご説明します。

1 離婚できるか

(1)夫が離婚に応じる場合も

例えば、妻が離婚したいと思い、夫に離婚したい旨を伝えたところ、夫も特に異存なく、離婚に応じた場合、協議離婚(裁判外の話し合いによる離婚)ができます。長く婚姻生活を送っているものの、途中が夫婦の関係が冷めてしまっていて、夫も同じようなことを考えていて、すんなりと離婚の話が進むことも少なくありません。

他方、長年、夫は好き放題し、家庭内で王様のような態度で、妻は子どものためや経済的理由から耐えていた場合、夫は、妻の気持ちに全く気付かず、まさか妻が離婚を考えているなど、夢にも思っていないことがあります。このような場合は、妻が離婚を切り出すと、夫は激しく抵抗し、協議での離婚は難しいことが多いです。ただ、この場合でも、妻の離婚の意思が強固であれば、調停など進めていくうちに、そこまで離婚したいならと離婚に向けての話に応じるようになる場合もあります。

(2)夫が離婚に応じない場合

夫が離婚にどうしても合意しない場合に、離婚するためには、裁判で離婚が認められるための離婚事由が必要です。
離婚理由は、民法770条 1 項 5 号で定められています。

(民法770条 1 項)
1号 配偶者に不貞行為があったとき
2号 配偶者が悪意で遺棄されたとき
3号 配偶者の生死が 3 年以上明らかでないとき
4号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5号 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(婚姻が破綻しているとき)。

夫が不貞行為をしたり(1号)、家を出て生活費も払わない(2号)、身体的暴力を振るう(5号)など離婚事由があることは明白です。

ただ、このような分かりやすい離婚事由がなくても、長年に分かる夫のモラハラ的言動で、こんな状態では結婚生活続けるのは難しいな裁判官が思ってくれそうな事情をたくさん積み重ねることで離婚が認められる可能性もあります。

さらに、夫のモラハラ的言動もなく、これといって理由がないという場合は、別居を開始し、ある程度別居を継続することで、婚姻が破綻しているとして、離婚事由があると認められる可能性もあります。

2 本当に離婚すべきなのか

このように離婚が認められる可能性がある場合でも、熟年離婚をしようとする女性にとって一番考えなければならないことは、離婚後の経済的な見通しです。婚姻当初はフルタイムで仕事していたが、子が生まれた後、専業主婦になったり、仕事を再開したとしてもパート勤務で、自分だけの収入だけでは生活できない場合があります。

長年、主婦やパート勤務の生活をしてきた場合、いざ就職しようとしても、正社員としての就職は困難であることが多いです。となると、例え、離婚時に財産分与を得て、離婚当初は問題なく生活できたとしても、何年か経つと困窮してしまうということになりかねません。

そこで、離婚時の財産分与で得られるものの見込みだけではなく、離婚後にどの程度の収入の見込みがあるのかも検討し、離婚を進めるべきか否か慎重に決めましょう。

3 離婚か別居か

長年の積み重ねで夫とどうしても別れたいけど、経済的には不安であるという場合は、まずは別居をすることを考えてみましょう。

結婚が続いている間は、収入の多い夫は妻に対して生活費(婚姻費用)を支払う必要があります。しばらく、夫からの婚姻費用で別居生活をし、その間に仕事などを見つけて、離婚への準備をするという手もあります。

もっとも、別居を開始する場合でも、別居前に証拠集めなどできる限りの準備をすることもお忘れなく。

また、60代、70代になると、一緒に生活することが辛いので別居はするにしても、将来の相続の問題を考えると、敢えて、離婚するより、婚姻を継続している方が良い場合もあります。

4 離婚を早まってはいけない

検討を重ねた上でやはり離婚をした方が良いということになった場合でも、何も決めずに離婚だけ成立させることはしてはいけません。例えば、夫に離婚の意思を告げたところ、夫は思いのほかあっさり離婚に応じてくれて、離婚届にサインしてくれたという場合でも、財産分与等経済的なものを何も決めずに離婚届を提出して離婚してしまうことは絶対に止めましょう。

離婚の話し合いの中で離婚だけ先に決めてしまうメリットはありません。

5 財産分与について

熟年離婚では、婚姻財産の種類や数が多かったりして財産整理が複雑な場合が多いです。もっとも、長い婚姻生活で財産の情報が全く分からないということは稀ですので、最終的には双方の財産がほぼ出揃って公平な形で財産を分けることが出来る場合が多いです。

別居する前に、夫名義の財産についての情報を出来る限り、集めることは重要です。証拠集めについては、離婚に向けて証拠集めをしたいをご参照ください。

(1)退職金

熟年離婚の場合の財産分与で大きな部分を占めるのが退職金です。まだ退職時期が到来していない場合でも、退職金がほぼ確実に支払われるような場合は、退職金も婚姻財産として財産分与の対象になります。

離婚手続きを進める時期に関係するのですが、もし、離婚を進める時期が夫が既に退職し退職金が支払われた後の場合、退職金が振り込まれた口座に別居時点で残っているものが財産分与の対象になります。ですので、もし、夫が退職金が支払われた後、大部分を使ってしまったり、隠してしまったりすると、その部分を財産分与として取れない可能性があります。

もし、まだ、退職していない段階で離婚財産分与の手続きをする場合は、原則として、別居時点で仮に退職した場合の退職金見込み相当金額が財産分与の対象となり、退職時を待たずに財産分与として認められることが多いので、財産分与として確保できる可能性が高いです。

ですので、もし、離婚を進めることを決めて、退職金部分も確実に確保したい場合は、夫が退職前に離婚財産分与の手続きを進めた方が良いと思います。

(2)不動産

婚姻中に不動産を購入して、夫の収入からローンの支払いをしていた場合は、その不動産は婚姻財産で、財産分与の対象になります。例えば、不動産の名義が夫名義の場合、離婚に際して夫が不動産を取得する場合は、その不動産の時価の半分を妻に財産分与の清算金として支払う必要があります。

名義人の夫も不動産はいらないということになれば、その不動産は売却して、売却代金から諸費用を控除した残利益を夫婦で 50/50 で分けることになります。

熟年離婚の場合は、婚姻中に購入した不動産のローンの返済も既に終わり、子どもも独立して家を出ている場合も多いので、もうファミリー用の大き目の物件は不要であるとして、売却して利益を分ける場合も多いです。

6 年金分割

婚姻期間が長い場合は、年金分割手続きをするとしないとでは、妻が将来受け取り年金額に大きく違いが生じます。夫が会社員や公務員のため、厚生年金で、夫の被扶養者であった場合又は、夫の被扶養者ではないが、夫の方が収入が高い場合は、年金分割の手続きを忘れないようにしましょう。

年金分割については、年金分割について知りたいをご覧ください。

7 まとめ

熟年離婚は、婚姻期間が長いこともあり、婚姻期間中に形成した財産が多岐にわたり、複雑なことが多いです。そのため、漫然と進めると、得られるはずの財産が取れなくなり、多大な損失を被りかねません。

そのため、離婚事件、財産分与に詳しい弁護士に相談、依頼して進めることを強くお勧めします。

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この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
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