別居が長ければ離婚できるのでしょうか。

相手にこれといって離婚事由がない場合、まずは別居をと考えます。確かに、特に理由がなければ、通常の夫婦は同居して生活しますので、別居しているとなると、夫婦仲が良くない、さらに、婚姻関係が破綻していると推測されます。例えば、有責配偶者(明らかに離婚の原因がある側の配偶者)からの離婚請求でない場合は、3年程度別居すれば破綻と認められるとか、5年程度なら、と言われることがあります。しかしながら、別居期間だけで離婚が認められるということにはなりません。

平成30年12月5日東京高等裁判所判決(判例タイムズNo.1461.2019.8)は、単に別居期間が続いていても離婚は認められないことを示しました。

この判決は以下のような事案でした。夫婦には、未成年者の子がいて、夫の高齢で障害等級1級の父も引き取って妻が介護していました。ところが、夫が妻に突然離婚を要求し、別居を開始しました。夫は、一定の婚姻費用(恐らく算定表に基づいた金額)は妻に支払っていましたが、子の監護だけでなく、夫の父の介護も妻に押し付け、妻や夫の父からとの連絡を避け、離婚後の妻らの生活設計について説明や話し合いも一切しない態度を貫ぬき、別居期間7年以上経過していました。このような夫からの離婚請求に対し、東京高等裁判所は、次のとおり判示して、夫の請求を棄却しました。

「一般に、夫婦の性格の不一致等により婚姻関係が危うくなった場合においても離婚を求める配偶者は、まず、話し合いその他の方法により婚姻関係を維持するように努力すべきであるが、家事専業者側(専業主婦)が離婚に反対し、かつ、家事専業者側に離婚の破綻についての有責事由がない場合には、離婚を求める配偶者にはこのような努力が一層強く求められる。」

「離婚を求める配偶者は、離婚係争中も家事専業者側や子を精神的苦痛に追いやったり、経済的リスクの中に放り出したりしないように配慮しなければならない」

「離婚請求者側が婚姻関係維持の努力や別居中の家事専業者への配慮を怠るという本件のような場合においては、別居期間が長期化したとしても、直ちに、婚姻継続し難い重大な事由があると判断することは困難である」

「仮に、婚姻継続し難い重大な事由があるとしても、離婚請求が信義誠実の原則に照らして容認される必要がある」
夫は「婚姻関係の危機を作出したという点で有責配偶者に準ずる立場」

「夫の離婚請求を容認して、婚姻費用分担義務から解放することは正義に反する」

つまり、妻にこれといって離婚の原因がないのに、最低限の婚姻費用だけ払い、一方的に子の世話だけでなく、夫の父の介護まで押し付けていた、自分が離婚を求めているのに、専業主婦の妻の離婚後の生活を考えた提案をするどこか、妻との話し合いすら拒否して別居を続けたという夫の身勝手で不誠実な態度に裁判所がキレて、7年以上別居していたにもかかわらず、夫の離婚請求を棄却したのです。

本件では、夫は、不貞をしていたという事実は出てきていないので、夫が不貞した場合以外でも、有責配偶者からの離婚請求に準じるとして、離婚の可否が厳しく判断された一例ともいえます。

夫が、妻に対して、離婚請求をする場合は、妻の生活に配慮した行動をすることを求められ、間違っても兵糧攻めのように妻を追い詰めるような行動はとってはいけない、長く別居していれば良いということではない、ことを示してくれた判例だと思います。

この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
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