ラブホテルに滞在したのに不貞にならないの?

不貞慰謝料のケースでは、夫(妻)と相手が不貞行為をした事実が必要です。ただ、不貞行為があったか否かは、2人で仲良く裸で写っている写真でもない限り、直接知る方法はありません。妻(夫)が2人の裸の写真を見つけることもあるのですが、このように直接的な証拠を残していない場合の方が多いです。その場合は、例えば、2人がホテルに入って、翌日、ホテルから出てきたところを写した写真や、不貞関係を推測できる内容のラインなどのSNSやメールから、不貞関係を間接的に証明します。

不貞慰謝料請求の実務では、2人がホテルに滞在(入る)すれば、少なくとも性行為をすることが多いので、2人の間に不貞行為があったと推認され、裁判所は不貞を認定することが通常です。

しかしながら、最近2人がラブホテルに滞在した事実を認定したにもかかわらず、不貞行為を認定せず、不貞慰謝料請求を棄却したという判決がありました(福岡地方裁判所令和2年12月23日判例タイムズNo.1491.2022.2)。

このケースは、妻が女性に対し夫と不貞行為をしたと主張して慰謝料を請求した事案です。夫と女性は、複数回一緒にラブホテルに宿泊したり、ホテルから出てくるとき手をつないでいたなどの事実は証拠上明らかでした。

夫と女性は、もともと依存症の勉強会で知り合い、一緒に勉強するようになった。そして、ラブホテル宿泊したのも、ホテルの部屋2人でDVDを見るなどして依存症のための研修をしていたにすぎない。手を繋いだのは、女性がラブホテルから出るのを他人に見られるのを恥ずかしがって躊躇していたのを夫が手をひっぱったに過ぎないなどと言って、性行為はなかったと女性は主張していました。加えて、女性からの証拠として、夫と女性のメールが提出されており、その内容は、夫が女性との性行為をしたいけど我慢している、女性が夫の要求を受け流しているという内容でした。

2人でホテルに宿泊したが、映画を見ただけだとか語り合っていただけで性行為はないという主張は、他のケースでも良くある主張なのですが、そんなことあるわけないでしょという感じで、認められないのが普通です。ただ、この福岡地裁のケースでは、夫と女性のメールの内容が決めて手となって、不貞行為の存在の証明が不十分と判断されました。

確かに、実際に性行為を行っていたら「性行為をしたいけど我慢している」とは書かないでしょうから、不貞行為はないともいえるかもしれません。ただ、1度だけではなく、多数回ラブホテルに宿泊している点からは、不貞行為の存在はとても強く推認されます。ですので、別の裁判官なら異なる判断であった可能性は高いなと思います。不貞相手に対する慰謝料請求は日本以外では認められている国は少なく、裁判官の中にもかかる慰謝料請求に対して消極的な考えを持つ人もいて、その考えが判決に影響する場合もあります。

いずれにしても、この福岡地裁の判決は、ラブホテルに滞在しているのに不貞行為を認めなかった珍しいケースです。この判例があるから、他のラブホテル滞在ケースでも不貞が認められないということにはならないと思います。

この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
ページの先頭へ