将来の退職金は財産分与の対象となるの?

離婚の際には婚姻中に夫婦の収入で築いた財産を夫婦で分けて清算して財産分与をする必要があります。

その際に、まだ会社に勤務中で退職していない場合、将来会社から支給されるであろう退職金の財産分与について忘れがちです。

退職金の財産分与について理解して、退職金も忘れずに財産分与に盛り込むようにしましょう。

1 退職金も財産分与の対象になるのでしょうか、なぜなるのでしょうか。

退職金も財産分与の対象になります。なぜ退職金が財産分与の対象になるかというと、退職金は、給料(労働の対価)の後払い的な性格を有するものとされているからです。結婚後別居までの給料(労働の対価)に配偶者の協力があったとして、財産分与の対象とされているのです。

もっとも、退職金は、勤務先の就業規則や給与規則、退職金規則などで退職金が支払われることが規定されていないと、そもそも、退職金の支給がないので、その場合は、退職金を財産分与として主張することは出来ません。

また、早期退職等で加算された退職金が支払われる場合の加算部分も財産分与の対象となり得ます。

2 退職の時期がまだだいぶ先でも財産分与の対象になるのでしょうか

退職が目前に迫っている場合は、退職金が財産分与の対象になることは比較的分かりやすいと思います。

しかし、退職の時期が5年や10年先の場合も退職金を財産分与の対象にすることが出来るのでしょうか。

これには3つの考え方があります。

  1. 別居時に退職したと仮定した場合の退職金見込見込額を財産分与の対象とする。
  2. 定年退職時の退職金見込額から、別居後から退職までの労働相当分を差し引き中間利息を控除し、手続終了時(離婚訴訟の場合は口頭弁論終結時、財産分与審判の場合は、審判時)の価額を算出し、その金額を財産分与の対象とする。
  3. 定年退職時の対象金見込額から、別居後から退職までの労働対価相当分を差し引き、v財産分与の支払い時期を退職時
  4. とする。

以前は、退職時期がまだ先の場合は、公務員や大企業の従業員でなければ、将来、退職金支給の有無や退職金の金額について不確定要素があるからという理由で退職金を財産分与の対象にしない例がありました。

しかしながら、最近は、公務員や大企業社員でなくても、退職の時期がかなり先であっても、会社に退職金規定等で退職金が支給されることになっている場合で、上の(1)の別居時に退職したと仮定した場合の退職金見込額が出れば、その金額を財産分与の対象とすることが多いようです。

3 財産分与の対象となる退職金の範囲は?

例えば、大学卒業後、新卒で就職した会社に勤務続け、その間、結婚し、別居もしたが、まだ、同じ会社に勤務続けている場合、退職金はどの範囲で財産分与の対象になるのでしょうか?

財産分与の対象となる退職金の範囲は、

「別居時(基準日)に自己都合で退職したと仮定した場合の退職金見込額×同居期間÷就業期間」

で計算します。(東京家庭裁判所平成22年6月23日審判:家庭裁判所月報63・2・159)

ですので、別居後に夫が退職して退職金を手にした場合も、同じ式で計算して、財産分与の対象となる額を確定することになります。

もっとも、例えば、別居後も妻が家計を管理していた場合など、財産形成に夫婦の協力関係がある場合は、妻が家計を管理することを終了した時期を基準日として、その時の退職金見込額を出して、財産分与する場合もあります。

4 将来の退職金額はどのように分かるの?

それでは、別居時(基準日)に退職したと仮定した場合の退職金見込額はどのように知ることが出来るのでしょうか?

勤務先に退職金見込額が分かる資料を発行してもらいます。例えば、夫が勤務先から退職金を支給される見込みがある場合、妻が直接、夫の勤務先から退職金見込額の資料を得ることは出来ませんので、夫に働きかけて取ってもらいます。離婚調停をしている場合は、調停員から夫に促してもらいます。それでも、夫が退職金見込額の資料の提出を拒む場合は、裁判所に夫の勤務先への調査嘱託の申し立てを行い、裁判所を通じて、直接夫の職場に退職金資料の提出を求めます。

もっとも、当初は、自分から退職金見込額を提出することを拒否する場合でも、裁判所から勤務先に連絡が行くことを嫌がってか、結局は、自分で勤務先に依頼して、退職金見込額が分かる資料を発行してもらい、裁判所に提出してくることが多いです。

5 支払われる時期は?

財産分与される退職金の額が決まったとして、支払われるのはいつなのでしょうか。退職金はある程度高額になることが多いので、離婚直後に一括に支払うことが難しい場合もあります。

まず、離婚判決の場合は、離婚判決確定後に一括で支払われることになります。一括で支払わず、一部でも支払いがされない場合は、強制執行をすることが出来ます。

調停や和解の場合でも、一括で支払う合意をすることが多いです。分割の場合でも、あまり長期の分割ではないことが多いです。

このように一括払いとされることが多いのは、財産分与は離婚の際の婚姻財産の清算なので、基本的にはすぐに支払うべきと考えられているからのようです。また、ある程度高額の退職金を支給する会社に勤務する場合、もともとの給料も高いため、一括支払いできる程度の資力があると考えられるからとも言えます。

6 会社経営者、自営業者の場合

会社経営者や自営業者の場合、退職金がないのではないかと諦める必要はありません。

確かに、自分が経営者の場合は、文字通りの「退職金」がない場合もあります。

しかし、「退職金」に相当するもの、例えば、会社取締役等の役員の場合は「退職慰労金」があり得ます。

また、会社形態でない自営業者でも、中小企業共済等に加入していれば、共済からの「退職金」があります。企業も将来の役員への退職金のために保険に加入している場合もあります。

これらを意識して、財産分与のための情報を収集すると良いでしょう。

7 退職金の仮差押えは出来るの?

例えば、これから離婚手続きをしようとしているが、手続きしている間に夫の財産を処分されてしまい、財産分与の決定を貰っても回収できない危険があることがあります。その場合に、離婚手続きが完了する前に財産を仮差押えして処分できないようにしておくことが出来ます。

退職金も仮差押えをすることは出来、もし、夫が退職金を受け取った途端にどこかに隠してしまう、使ってしまう恐れがある場合は、退職金の仮差押えを検討する必要があります。

ただ、仮差押えをするために、仮差押えする必要性、例えば、差押えしておかないと、財産分与で決めた財産を確保できなくなってしまう危険性があることを裁判所に示すが必要があります。

離婚財産分与のための仮差押えは、その他の民事事件の仮差押えに比べ、比較的認められやすいのですが、それでも、退職金の仮差押えは差押えされた側への影響が大きいので、例えば、その他に不動産があったり、退職までまだだいぶ先である場合は、仮差押の必要がないとして退職金への仮差押が認められないこともあります。その場合は、退職金以外の財産の仮差押えをまず検討します。

8 まとめ

以上が退職金の財産分与についての説明でした。

退職金の財産分与を主張すると、夫から将来のことで不確実で財産分与の対象にならないと反論される場合がありますが、上で説明したとおり、退職金が財産分与の対象になることは実務上、ほぼ確立していると言えます。

ですので、夫のかかる主張に怯むことなく、退職金の財産分与を主張し、離婚後の生活がより安心できる内容になるように努めましょう。

この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
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