子どもの教育費は払ってもらえるの?

夫との別居や離婚を考えているけど、今子どもが通っている塾や習い事、私立の学校の学費など、子どもの教育費を自分1人で支払うことは難しいから、別居や離婚したら、それらを止めさせなければならないのか、将来の子どもの大学の費用を払えないのではないかと不安に感じている方も少なからずいらっしゃると思います。

別居離婚した場合の子どもの教育費はどうなるのでしょうか。

1 婚姻費用、養育費における教育費

婚姻費用とは、婚姻中の夫婦の扶養義務(生活水準を同等にする)に基づいて認められるもので、収入の多い側が収入の少ない側に支払われる生活費です。

養育費は、親の子に対する扶養義務(生活水準を同等にする)に基づいて認められるもので、子と同居していない親が子に支払う費用です。

婚姻費用も養育費も、その金額は、双方の収入を基に計算されます。現在の家庭裁判所では、「2019年12月改定版標準算定方式」(標準算定方式)で計算されます。

そして、子どもがいる夫婦の場合、婚姻費用と養育費には、公立の小中高等学校に通っていると想定した場合の標準的な教育費が含まれています。

2 標準的な教育費

ここでいう公立の小中高等学校に通っている場合の標準的な教育費には、公立学校の授業料や教科書代、文房具代、PTA会費、交通費などが含まれます。

婚姻費用や養育費に占める教育費の割合は収入によって異なるのですが、仮に年間収入が761万円で公立高校の子が1人いる世帯で公立高校の学校教育費相当額は年間25万9342円とされています。

この標準的な教育費には、私立学校や大学の費用、塾や予備校、習い事の費用は含まれていません。

 

3 標準を超える部分

「標準的な教育費」を超える部分は、誰が負担するのでしょうか。

ときどき、「標準算定方式(算定表)で出た養育費や婚姻費用は支払うがそれしか払わない!」と主張する父親がいますが、そういう訳にはいきません。基本的に、父母の収入に応じて、「標準的な教育費」を超える部分を負担する必要があります。

「標準的な教育費」を超える部分の加算が認められるのは、➀義務者(支払う側)が明示又は黙示で承認した場合義務者(支払側)の収入、学歴、地位からその教育費負担が不合理でない場合とされています。

➀の明示で承認というのは、例えば、父親が義務者として、父親が明確に塾に行くことを了解して、授業料も支払っている場合です。また、黙示で承認というのは、父親の意向ははっきりとはしないが、子が塾に行っていることについて特に異議を言って止めさせる等していない場合です。

②の収入、学歴、地位から教育費負担が不合理でない場合とは、例えば、父親が大学卒業で、支払が出来る程度の収入がある場合です。

ただ、実際のところ、家庭裁判所では、同居中から既に続けている塾や習い事、私立学校への通学がある場合、それら全てにつき、義務者に費用負担させている印象です。これは、家庭裁判所としては、子のそれまでの生活を変えることなく続けることが子の福祉に叶うと考える傾向にあるため、月謝が払えなくなってそれまで続けていた習い事などを止めてしまうという状況を極力避けようとしているのだと思います。

4 加算方法

「標準的な教育費」に含まれない教育費はどのように加算されるのでしょうか。

この点、離婚後の養育費に加算する場合は、実際の教育費を父母の収入の割合で負担額を決めるが、別居中の婚姻費用の場合は、実際の教育費を二等分とするとう考え方もあるようです。

しかしながら、この点は、東京高等裁判所令和2年10月2日決定(家庭の法と裁判 No.37/2022.4)で、婚姻費用に教育費を加算する場合、父母双方の収入の額に応じて按分する考え方を取ることを確認しました。

この東京高等裁判所決定では、長男の浪人中の予備校費用と大学受験費用、長女の私立高等学校の学費等の負担について、父親が負担割合は、父母で二等分すべきとの主張を退け、父母の収入割合(7:1)に応じて、それぞれの負担額を定めました。

5 私立幼稚園、保育園の費用の加算

高校、大学などの高等教育だけでなく、私立の幼稚園、保育園の費用も金額によっては、婚姻費用や養育費に加算され得ます。

この点、東京都の場合、令和元年10月1日から、3歳から5歳の幼稚園、認可保育園、認定保育園無償化され、認可外保育園は一定額(月額4万2000円)が無償化されましたので、幼稚園、保育園の費用が問題となることは少なくなるかもしれません。

もっとも、認可外保育園は無償となるのは一部ですし、民間のベビーシッターの費用は無償とはなっていないので、これらの費用の負担の問題は残ります。保育園やベビーシッター費用は、利用しなければ、子と同居している親が就労することが難しくなることから、標準的な教育費への加算が認められる可能性が高いと思います。

6 私立高等学校や高等専門学校

私立高等学校や高等専門学校の学費について、現在は、国による高等学校等就学支援金制度(就学支援金)や、東京都の授業料減額助成金制度により、父母の負担を決めなければならない部分は少なくなってはいます。しかしながら、この支援制度も授業料だけが対象でありますし、支援制度を利用できるための所得要件もあり、必ずしも全ての子どもたちが利用できるものではありません。そのため、その他の費用の負担については、父母の負担を決める必要があります。

7 大学進学費用

大学進学費用について、ときどき、父親が大学に行くことは了承していたが、ここの大学に入学するなんて来ていない、相談も受けていないなど主張して、大学進学費用の支払いを拒否する場合があります。

しかし、既に子どもが大学に入学し在籍している場合は、例え、父親がどこの大学を受験するか、どこの大学に進学するかについて、子や母親から情報を得ていなかったとしても、父親に負担する収入、資力がある場合、裁判所は、父親に子どもの大学進学にかかる費用を負担させる傾向にあります。

8 将来の教育費

既に高校や大学に実際に通っている場合は、学費など具体的な金額を取り決めることが出来ます。

しかし、養育費、婚姻費用の取り決め時、決定時にはまだ高校や大学に通っていない、例えば、養育費、婚姻費用取り決め時、子どもは小学生の場合で、将来大学に進学するか否かも決まっていない場合は、具体的な金額を取り決めすることが出来ません。

この場合、調停などの話し合いで取り決める場合は、将来改めて協議するという条項を入れることになります。裁判所の決定の場合は、このような協議条項は入りませんが、協議をすることは可能で、再び、調停を申し立てて、大学費用についての分担を話し合うことになります。

大学の費用やその他の高額や教育費について、婚姻費用や養育費の取り決めや決定で決めていないからと諦めずに、具体的な金額が判明したら、改めて、父親に教育費の請求をしましょう。

9 まとめ

子の教育費については、既に通っている塾や習い事の費用はほぼ全て、父母で収入の割合で負担することが認められますし、将来の大学等の学費についても、不合理な内容(例えば、資力がないのに、留学費用や私立医学部の学費を請求するなど)でなく親に相応の学歴、地位、資力がある場合は、裁判所は収入に割合での父母の負担を認める傾向にあります。

ですので、例えば、夫のモラハラ行為には耐えられない、このまま結婚生活を続けるのは子どもにとっても良くないので、自分が子どもの親権者になって離婚したい。でも、塾や習い事はやめさせたくない、子どもの将来の大学の学費等が支払えるか不安だと考えている方は、子の教育費は基本的には夫に請求できることを心に留めて離婚の準備をされると良いと思います。

この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
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